2010年6月26日土曜日

2月28日 癌末期の人(最後の守り)

『嫌や!!    会いたく無い。』洩れ聴こえてくる拒絶の叫びである。『無理にでは無いんですよ。・・・』
看護師さんと患者さんの会話だが、大凡の察しはつく。事前に数名の医師が訪れていて、この患者に告げるには『これが効かんようになったら、次は麻薬やで・・・』。引き揚げた医師と入れ替わりにこの看護師さんが来て、患者さんに何か説明をしだしたのである。が、患者は頑なに拒否を示し、後は無言の抵抗と言う訳である。実はK市には3ヶ所の終末期医療施設(ホスピス)があり、ここK大病院は地域医療連絡NETで連携しているらしい。これらのホスピスの職員とこの患者との面談を看護師さんがセッティングしだしたのであるが、冒頭の如く拒否の姿勢を示したのであります。
この患者さんK大と同じ都市にある私立病院で治療していたのであるが、どうも前立腺癌の発見が遅れた様で、既に骨にも癌は来ていたのである。紹介されたK大にての診察結果は、推定される余命は半年と言う過酷な宣託で 、どうも本人はここを最後の場所と決め込んだ様である。本人と直接話す機会も幾度かあったが、その中で強く印象に残ったのは〈生きる意志〉であった。ホスピス拒否の理由は2つ。本人曰く、ここK大に見捨てられるのが寂しいから。他病院ではK大程先進的な機械が揃っていないから。であるらしい。病院で準備された食事も献立に拠っては食べない。自炊である。ある日、僕に一冊の写真本を見せてくれた。タイトルは『癌のための食事』とかであった様に記憶している。生きる強い意志である。なので、当然看護師さんと食事で揉める。人間同士だから感情も露骨にでる。一瞬部屋の雰囲気は沈んだ重い緊張感で張り詰める。
僕は先に退院したので、彼の消息は知らない。看護師さんはご存知だろう。だが、看護師さんは知らないだろうけれども、僕は知っているのである。彼が夜中、静かに泣いていたのを・・・


記録『桃色吐息』

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